2025/11/3
はじめに:神保町がいい町すぎる
このごろ神保町に通い詰めている。直近だと2週間足らずのうちに5回遊びに行っている。学生が友達の家に入り浸るような頻度。
神保町には自分の好きな「いい居酒屋」「いい喫茶店」「いい本」が揃っている。落ち着いて本が読める場所はまだ見つかっていないけど、きっとどこかにあるはず。
苦しいときに行くと息継ぎができる町。楽しいときに行けば、きっともっと楽しくなれる。
最近の目的は専ら古本まつりと兵六*1とティーハウスタカノ*2の3つ。これさえあればずっといられる。
古本まつりは会期の前半こそ雨で残念だったが、晴天の最終日に行けたので十分楽しめた。
そう、古本まつり。今日は買った本について喋ります。
※オペラ『ナターシャ』のネタバレを含みます
- はじめに:神保町がいい町すぎる
- 買った本
- 饗宴 (岩波文庫 青 601-3)
- 異体字の世界
- 日常性の構造Ⅰ 物質文明・経済・資本主義ー15-18世紀(2冊セット)
- 茶の本 英文収録
- 「善さ」の構造
- 江戸の教養 遊びと学び
- カヴァレリーア・ルスティカーナ: 他十一篇 (岩波文庫 赤 707-1)
- 流刑の神々・精霊物語 (岩波文庫 赤 418-6)
- おいしさの人類史:人類初のひと噛みから「うまみ革命」まで
- 言語表現法講義
- 自由な社会をつくる経済学
- 日本の民家
- 円空と木喰
- 日本的霊性
- 無限抱擁
- 岩波講座哲学1 いま<哲学>することへ
- そして、暮らしは共同体になる。
- 同性愛
- 最後に:あとは読むだけ……
買った本

不揃いだけど、これは買った順。
やはり出会うタイミングというのは大事である。気になる本は数多くあれど、購入に至るにはそのとき考えていることやきっかけが必要だったりする。
誰かが言った、誰も知らない名言。
「何かをするにはきっかけが必要。ちょっとしたことで心理的に軽くなったり、物理的に4mだけ近かったり。そういうのが重要なんだ。」
知らないでしょ。初出は2019年に自分が見た初夢です。失礼しました。
……そんなわけで、まだ一冊も読み切っていないけど、それぞれに買った理由やきっかけがあるので記録しておきます。
饗宴 (岩波文庫 青 601-3)

¥300
8月に初めて観た現代オペラ『ナターシャ』のブックレットにある評論で知った。
『ナターシャ』は、混迷を極める現代の地獄を体験した主人公の二人がクライマックスで愛から何かが誕生することを示唆して終劇する。
評論では、この場面で「愛は何かを生む」ことを、プラトンの『饗宴』を下敷きに展開している。
正直『ナターシャ』は微妙だったが、なにぶん自分のオペラ観劇が人生初だったので、表現やメッセージ性を汲み取りきれなかった可能性もある。何かを批判するなら前提としている知識はしっかりつけておきたい。
異体字の世界

¥500
かつて『日本語のために (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 30)』を読んで以来、旧字体がかっこよくて好きでいる。
それに加えて隣の部署に旧字体が好きな人がいて、その人と話をしたときから旧字体を読めるようになりたいな、とぼんやり考えていた。
小説はそこまで多く読まないが、好みとしては戦前〜戦後の作家*3の文体が自分に合うので、もっと原文に近いまま読めるようになりたい気持ちもある。
この本は異字体の本なので旧字体だけの話ではないが、いずれにせよ面白そう。
日常性の構造Ⅰ 物質文明・経済・資本主義ー15-18世紀(2冊セット)

¥6,000
たぶん箱付き美品で値が吊り上がっているが、それでも定価の半額未満。
物質の力を塵ほどだに認めない純な聖(きよ)い心! —花物語(上) p121
仕事に疲弊してダメになると、いつも花物語の一文を諳んじて、
「物質世界よりも精神的なものを尊びたいな〜〜」
と考えている。
この日も、鈍麻を極めた頭で店内を這い回りながら、漠然としたニーズを満たすいい感じの本をぼんやりと探していた。
背表紙のタイトルが目に入ったとき、
「物質文明......敵を知ることは大事だな」
と安直に考えて、ビニールで包まれていたので中身を全く知らないまま買ってしまった。
冷静になって少し読んだが、現代の話が全然始まらない。100ページまでずっと世界人口の話をしている。なんだこれ、と思ったらタイトルに「15-18世紀」って書いてあった。バカ。
著者のフェルナン・ブローデルを調べたら、歴史学者でアナール学派*4の総帥とか呼ばれている。この本は彼が20年かけて書いた大著にして名著だとか。なんも知らずに買ってしまった。歴史なんて『サピエンス全史』くらいしか読んでないが、買ったからにはちゃんと読みます。
茶の本 英文収録

¥400
自分が紅茶に凝りだしてから、もうしばらく経つ。
三重でよく通っていたティーハウス『Sion.808』のマスターから、
「日本人の紅茶の楽しみ方は茶道に通じるものがある」
「ティーハウスタカノの髙野さん*5は、紅茶を“淹れる”ではなく“点てる”というんですよ」
と聞いていたので、茶道の本も攻めてみることにした。実際、日本人が書く紅茶の本は数が少ない上に、どうしても内容が産地・淹れ方・効能・歴史で終わってしまいがちなので、なんか物足りなかった。
紅茶も技術的な「淹れ方」に留まらず「楽しみ方」の次元に上げていこうとすると、少なからず茶道に寄っていくところはあると思っていた。
この本の著者は、明治時代にボストン美術館で中国・日本部の顧問として勤めていたときにこの本を出版したらしい。
日本文化を海外に紹介するため英語で出版したものを、後世になって邦訳されたものだとか。新渡戸稲造の『武士道』みたいな話だと思ったが、実際、明治時代に英語圏で読まれた日本人作家の本としては代表的なものらしい。
今読んでいるが、日本的「美」と「善」に対してここまで深く考察している本は初めてで、かなり衝撃を受けている。
正直これまで茶道とか花道の意味や目的がわからなかった。
今、なぜあんな狭い茶室で行う儀礼めいたことに価値があるのか、精神性を理解しつつある気がする。
影響されやすいたちなので、読破したらまた変な方向に行ってしまうかもしれない。
「善さ」の構造

¥100
タイトルに惹かれて、目次と裏表紙のあらすじは目を通して買った。古今東西の「善さ」について紹介していた上で「善さ」について議論しているようなので信用できる気がした。
みんな、「善さ」についてちゃんと考えたほうがいいと思う。自分はまだちゃんとは考えてない。
自分にとっての「善さ」とは何か、現時点での立場をまとめておいてから読みたい。
江戸の教養 遊びと学び

¥100
ワゴンセールでちょっと気になって買った。普段は手に取らないタイプだが、安かったし。
友人の「落語とか見るときに知ってると嬉しいかも」という感想もあり購入。
個人的な好みだが、浅い薀蓄を語るためだけの、薄いトリビアを列挙しただけの本が大嫌いなので、「江戸についての教養が書いてある本」ではなく「江戸人が教養としていたことの本」であることは確認した。
実際には大差なかったとしても心情の問題である。
カヴァレリーア・ルスティカーナ: 他十一篇 (岩波文庫 赤 707-1)

¥500
引越し直後から4ヶ月間、たぶん20軒くらい本屋を巡ってようやく見つけた。
岩波文庫なので簡単に見つかるだろうと高を括っていたが予想外に苦労した。
話は逸れるが、今年4月に人生で初めてゲームのイベント*6とは無関係のオーケストラを聴いた。確かあのときは、FLOWERS10周年のオケコンが佳すぎてボロ泣き、テンションが上がってそのまま翌日のコンサートのチケットを取ったんだった。
聴いたのはリッカルド・ムーティ指揮の東京春祭オーケストラ。イベントも指揮者も曲名も、どこを切り取っても知ってる固有名詞が皆無だったが、めちゃめちゃ良かった記憶がある。勇壮な曲はドラクエ感*7がすごかったし、穏やかな曲は心地よすぎてちょっと寝てた。

その後、オペラを観てみようと思ったときに取ったのが、今年8月の新作オペラ『ナターシャ』と来年2月の古典オペラ『妖精ヴィッリ/カヴァレリア・ルスティカーナ』の2公演。
カヴァレリア・ルスティカーナは4月のオーケストラで一曲だけ聴いていたので、ちょっとでも知ってる作品の方が楽しめるかな、と思って選んだ。
そんなこんなでチケットは確保したので、あとは予習するのみ。Wikipediaを見ればあらすじは載っているが、それではあまりにも味気ないので原作小説を買ってみた。
……今初めて開いたけど、表題作『カヴァレリーア・ルスティカーナ』が12Pしかない。これでどうやってオペラやるんだ?
そんなわけで2月のオペラまでには読んでおきたい。
流刑の神々・精霊物語 (岩波文庫 赤 418-6)

¥350
これもカヴァレリーア・ルスティカーナと同じだけ探して、あちらを見つけた直後に、次の書店で発見した。こういうのは続くものである。
2月に行くオペラ『妖精ヴィッリ/カヴァレリーア・ルスティカーナ』のうち『妖精ヴィッリ』の原作?が精霊物語らしい。元が民間伝承なので表記揺れしてるし、ストーリーは全然違うかもしれない。あえてあんまり調べてないので、こちらも新鮮な気分で読みたい。
森の生活

¥700
あらすじを見て買った。物質文明から切り離された森の中に小屋を建て、そこで思索にふけったアメリカ人の体験記。あらすじを見た瞬間、最近買った『日常性の構造Ⅰ 物質文明・経済・資本主義ー15-18世紀』を思い出し、衝動的に買った。
現実の社会を物質世界側から見たのが『日常性の構造』、精神世界側から見たのが『森の生活』として、対比しながら読もうとしている。
おいしさの人類史:人類初のひと噛みから「うまみ革命」まで

¥2,000
去年か一昨年に読んだ『食品のコクとは何か』以来、味覚研究に興味がある。

『食品のコクとは何か』を読む前と読んだ後で、物を味わうときのアプローチの仕方が全く変わったし、手札そのものが増えた。
例えば紅茶をおいしく飲む際にも、呼吸と同時に鼻から吸い込む香り(オーソネーザル)と、口から喉を経由して鼻腔の後ろで感じる香り(レトロネーザル)を意識すると風味の感じ方の解像度が上がる。
今回も、美味しく味わうための新たな知見が得られると嬉しい。
言語表現法講義

¥1,200
一緒に古本まつりを巡った友人のおすすめ。
どうおすすめしてくれたかは正直あまり覚えてない。彼が面白いと言うならきっと面白いのだろうと思ってそのまま買った*8。
いい文章のどこがいいのかがわかるようになる、というような感じだった記憶もある。いや、これは自分が普段考えていることかもしれない。
……いずれにせよ、文章の読み方とか書き方の本は自分も好きなので迷わなかった。
仕事で書く文章は社内向けに情報が伝わりさえすればいいので頑張らないが、日記やブログの文章は感情まで伝わらないと書いてる意味がないので、こちらは上手く書きたい。その助けになれば嬉しい。
自由な社会をつくる経済学

¥1,000
新書。新品を少し安く買った。
読書人という、評論や対談や鼎談をメインで取り扱う出版社のブースで。
置いてある本がどれも馴染みが無く、
「政治と経済は苦手ジャンルで、どういうのから読めばいいですか」
と尋ねたときに提案された一冊。帯の推薦文の名前に震える。政治で経済だ。
普段なら絶対に手に取らず、気にも留めないタイプの本だが、だからこそ読んでみると発見があるかもしれない。
日本の民家

¥550
最近、SteamでValheimというオープンワールドサバイバルゲームを買って少し遊んだ。手触りはリアルで難しいマイクラといったところ。
なけなしの資材を使って木の壁と藁葺き屋根を組み、なんとか小屋を建てるところまでは進められた。
小屋の前に焚火を作って夜も凍えないようにしたが、大雨が降りこむと火が消えてしまう。急拵えで庇を延ばすと、今度は煙が籠もってしまい酸欠になってしまう。
結局、庇と屋根の間に煙の逃げ道を作って難を逃れた。
古本まつりでこの本のタイトルを見たとき、Valheimで建てた小屋を思い出した。換気扇がない時代、現実の民家はどうやって屋内に熱源を置き、どこから煙を流しているのだろう。
解説文をちょっとだけ斜め読みしてたら、「民家」という単語が一般的になったのはこの本の功績だとか書いてあった。名著だ。
円空と木喰

¥550
えんくう と もくじき と読む。二人の仏師の話。
円空仏は馴染み深いが、円空は何者なのかよく知らない。岐阜で生まれ、あちこちで木彫りの仏像を大量に作り歩いていた程度の知識。
そもそも円空が一冊のメインを張れるほどのビッグネームだと思ってなかった。そして円空とセットにされてる木喰は名前すら知らない。
懐かしい名前を久々に見かけたので読んでみる。
ヨーロッパ中世人の世界

¥500
なろう系ファンタジーを読み漁っていた影響で、中世ヨーロッパの世界観が好き。
好きではあるものの、これまで買った中世ヨーロッパの本はあんまり読めてない。元も子もないが、たぶん歴史にあまり興味がない。
この本は死生観や法意識、恋愛観のような民衆の価値観に紙幅の大部分が割かれているので読みやすそう。
日本的霊性

¥400
古本屋に行くたびに目に入るタイトル。
日本の宗教観には興味があるが、現代においても明らかに混乱していることはわかるので迂闊に手を出せない。変なのを読むと個人の主義信条が書いてある気がする。
そんなわけで、まずは古典的名著から読み進めていくのがいい気がした。
あと、今読んでいる『茶の本』で、茶道の誕生と発展には禅の影響が大きいことが触れられているので、そこを掘っていく点でもちょうどよさそうな本だった。
無限抱擁

¥100
遊戯王の「無限泡影」しか知らない。これが元ネタかと思って調べたら、仏教用語の「夢幻泡影」だとか。知らなかった。
あらすじを読むと、吉原の娼婦との恋愛、結婚、妻の死を描いた恋愛小説で、しかも作者の私小説だとか。思ってたより濃いぞ。
あらすじだけ読んだ感じ、この作品も「夢幻泡影」からイメージを共有してそう。
中身をめくると本文はガッツリ旧字体。初版は1941年。想像以上にいかついが、面白そうな匂いがしたので頑張って読んでみたい。
100円だしダメもとでね。
茶と美

¥330
タイトル買い。あらすじと目次を数秒ずつ眺めて買った。
自分の興味はもちろん紅茶が土台で、茶道の話もおさえておこうと思ったため。
『茶の本』を読んで衝撃を受けている最中なので、似た別の本も読んでおこうと思った。
後付けの理由になるが、著者の柳宗悦は大正〜昭和期に活躍した宗教哲学者だそうで、明治時代に書かれた『茶の本』よりも後になる。別の時代から同じものを見るのは面白いかもしれない。
岩波講座哲学1 いま<哲学>することへ

¥900くらい
帯の紹介文の1行目には「『日本の哲学』の顔が見えてきた」と書かれている。
哲学書はたまに読むが、難しくて正直ほとんど理解できてない。なんとか通読しても、少し経ったら専門用語の意味が試験勉強後のように頭から抜けてしまう。100分 de 名著ならわかった気になるので助かっている。哲学書が難しい理由の何割かは、翻訳による影響と、著者が現代日本から時空間的に遠すぎて価値観が合わないことにあると疑っている。
この本の帯を見て、母語で哲学していればひょっとしたら理解できるのでは、という期待があり、買ってみることにした。
そして、暮らしは共同体になる。

¥500
エッセイはあまり読まないが(こう書いてると敬遠しているジャンルばかりだと気付く)、コミュニティの中に入り込んでいく筆者の立場が自分の今の状況と何か通ずるものがある気がして購入を決めた。
パラパラとめくったら文体が好みだったのもある。柔らかいけど馴れ馴れしくない。ちょうどいい。
同性愛

¥500
1977年の初版本。サブカルとしての百合は好きだが、セクシャルマイノリティに対して取り組んだことはほとんどない。
いずれ何らかの意見を持てるようになった方がいいとは思う。
この本の興味深いところが2つあり、ひとつは訳者が精神医学の人であるところ。フロイト研究とかもやってるみたい。もうひとつが、終盤に「治療」についての章があるところ。
今ではありえないが、半世紀前だと精神病理の一分野として扱われていることがこれだけでもよくわかる。
せっかくなので“古い”知識を仕入れるのもいいと思って買った。
最後に:あとは読むだけ……
古本まつりの魅力は普段縁のない本が目に入ってくることにあると思う。
お祭りの空気も相まって、普段はちょっと気になっても買わない本や気にも留めない本をけっこう買ってしまった。
いつもの古本屋で買うよりも安いはずだが、数倍買うので節約効果は皆無。
古本まつり最終日、晴天の下で本を買い込んだ後、重いリュックとエコバッグを抱えて新宿御苑に寄った。
友人が朝からレジャーシートを敷いて寝ながら本を読んでいるので混ざりにいった。

三重に住んでいたときに、たまに公園や砂浜でブルーシートを敷いて本を読んでいたのを思い出した。
テトラポッドの上で三島由紀夫の『潮騒』を読んでいたのが懐かしい。
誰にも急かされないため集中できるが、風が強くて寒い。友人は寝袋持参なので快適そうで恨めしい。
この日は東京で木枯らし一号が観測されたらしい。秋を感じる前に終わった。でもサンマだけは結構食べたかも。
冬こそは落ち着いて本の読める店を見つけたい。
候補はけっこうある。
*1:老舗の居酒屋。そのうち語りたい
*2:関東で最古の紅茶専門店。東京で美味い紅茶が安く飲めるため非常に重宝している。先日の日記でも少し言及している。
*4:20世紀のフランスで生まれた歴史学派であり、アナールとは「年報」という意味。これまでの歴史学は大事件や偉人に注目しがちだが、アナール学派は民衆の生活や社会構造に注目することで、時代ごとの集合記憶を分析するもの……らしい。Wikipediaとニコ百を見ながら書いた。
*5:神保町にある紅茶専門店の名店のオーナー。Sion.808のマスターの師匠。
*6:ゲームサントラのライブやオーケストラコンサートは昔から行ってる。オーケストラならPSO2、十三機兵防衛圏、FLOWERS。ライブならガストブランドとアトリエシリーズの周年イベントは毎回行っている。
*7:というか、すぎやまこういち氏のゲーム作曲がクラシックをルーツとしているのを耳で理解した。
*8:こういう甘えた姿勢はあまり好まれない気もする